読書感想文 『弟の夫』
去年から読んでいた漫画が完結しました。
タイトルは『弟の夫』。
以下のような内容の作品です。
ゲイアートの巨匠、田亀源五郎、初の一般誌連載作品。弥一と夏菜、父娘二人暮らしの家に、マイクと名乗る男がカナダからやって来た。マイクは、弥一の双子の弟の結婚相手だった。「パパに双子の弟がいたの?」「男同士で結婚って出来るの?」。幼い夏菜は突如現れたカナダ人の“おじさん”に大興奮。弥一と、“弟の夫”マイクの物語が始まる――。
作者・田亀源五郎さんのインタビューです。
この作品を読んでみた理由として、以下のふたつの点が挙げられます。
ひとつは、同性愛者の方に対する偏見をなくしたいと思っていたこと。
もうひとつは、偏見をなくしたいという思いが空回ってしまい、実際に同性愛者の方と接した時におかしな反応をしてしまいそうなので、そうではない望ましい対応・接し方を知りたかったことです。おかしな反応というのは、たとえば友だちにゲイだとカミングアウトされたとして、それ以降極力そのことには触れないようにする…そういった反応のことです。まるで大学入試に落ちた友だちの前では楽しい大学生活の話はしないでおこうと気を遣うような、腫れ物にさわるような不自然な接し方しか自分はできない気がしており、それではいけないのではないかと思っていました。
結論から言うと、偏見はだいぶ解消されたのではないかと思います。なぜなら、この漫画が異性愛者である私の思いつきうるすべての疑問に答えてくれただけでなく、同性愛者であるマイクにも共感できる部分が多々あったためです。
主人公の弥一。男手ひとつで小学生の娘を育てるシングルファザーです。この人物が、通常考えられるレベルでの偏見を持った大人として描かれます。けれども弥一は、こんな風に思われるのはマイクは嫌なんじゃないか、だとか、こんな風に言葉を返すこと、こんな風な態度をとることが偏見の表れではないのか、などと事ある毎に自問します。
そして、弥一の娘である夏菜。小学校3年生という設定で、偏見や差別意識といったものを一切持たない存在として描かれます。この夏菜ちゃんが弥一(=偏見を持った大人)に対して率直に疑問をぶつけるたびに、弥一の発想や言動がどれだけ偏っているのかが浮き彫りになってくるのです。
作品を最後まで読んで、弥一の疑問や葛藤、心境の変化がとてもリアルだったことに驚きました。弥一が自分自身に対して問いかけることや娘の夏菜ちゃんと話すことは、私自身も以前悩んだこと、あるいは今でも答えの出ていないことだったりして、弥一に感情移入しながら読み進めていました。ですが、作者は同性愛者の方なのです。にもかかわらず、「同性愛者と突然身内になって困惑する異性愛者」の様子が非常にリアリティをもって描かれていた点が素晴らしかったです。弥一が偏見をなくしていく過程で、自分も同じように偏見をなくしていけたような気がしました。
そして、同性愛者の方におかしな対応ではなく望ましい対応をしたいという希望については、弥一がマイクと日々接する中でいくつもの個別事例を提示してくれていたので、ケーススタディとしてとてもためになりました。あとはそれを実践できれば申し分ないのですが。
…むむむ。この漫画について書き始めると止まりません。
とにかく、読後感もよく、何度も繰り返し読みたい漫画でした。
通常は「じゃあこの漫画家さんの他の作品も読んでみよう!」となるのですが…
そうはできない(=なかなか軽はずみに突入できない領域のため。)のがとても残念です。
筋肉の描写、体毛の描写がすごい。